2012-05-17のニュース

『愚者のエンドロール』米澤穂信(角川書店)読了

『氷菓』に続く古典部シリーズ第2弾。

どのように感想を書こうかと思ったが、貶してから褒めることにする。

まず断じて許せないのは、主人公折木が解明した事件の「真相」について。俺が知るかぎりこのトリックの初出は新本格作家A氏の作品だと思うが、まったく同じものを「盗用」しながら、あとがきでも一言もないというのはどういうことだろう?

『毒入りチョコレート事件』や『探偵映画』には触れながら、その作品に触れないというのはまったく理解に苦しむ。『占星術殺人事件』に対する金田一少年と同じだぞ、これは。

それとも何か。俺は寡聞にして知らないが、このトリックはパブリック・ドメイン化するほど一般的になっているのか? にしたところで、先達への敬意が必要ないわけじゃあるまい。

ともかくこの点については非常に腹立たしく不快に感じた(もし事実関係等誤認があれば教授願いたい)。

……ここから気分を変えて褒めることにする。実は本作においてトリックや謎解きは作品の根幹部分ではなく(幸いだった!)、主人公折木のレーゾン・デートルへの問いかけこそが主題だった。

「きっと何者にもなれないお前たち」であると自分を「貶め」、世事への無関心を貫いていた折木が役割を「与え」られ、有頂天になったところを突き落とされる。

そういった青春時代の1ページを切り取ったことに本作の意義はあるし、筆者がこれからの折木をどう描くのかには興味がある。

本格としての出来はさほどだし、トリックの問題はのどに刺さった骨のように気になって仕方ないが、青春小説としては頷けるところがあった。まあ折木の心情(喜び・苦さ)をもっともっと描いたほうがそのあたりがはっきりしてよかったとは思うけど。

ともあれ良きにつけ悪しきにつけ『氷菓』よりも読後感が「あった」。3作目も読む。

愚者のエンドロール (角川文庫)

  • 著者/訳者:米澤 穂信
  • 出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)( 2002-07-31 )
  • 文庫:254 ページ
  • ISBN-10 : 404427102X
  • ISBN-13 : 9784044271022
  • 定価:¥ 560

2012-05-16のニュース

『人間はどこまで耐えられるのか』フランセス・アッシュクロフト(河出書房新社)読了

タイトルだけ見るとゲテモノ寄りにも見えるが、あにはからんや、素晴らしいサイエンスブック。

第1章 どのくらい高く登れるのか
第2章 どのくらい深く潜れるのか
第3章 どのくらいの暑さに耐えられるのか
第4章 どのくらいの寒さに耐えられるのか
第5章 どのくらい速く走れるのか
第6章 宇宙では生きていけるのか
第7章 生命はどこまで耐えられるのか

の7章構成だが、1~4章はいざという時の危機管理マニュアルとしても秀逸。実例を引きつつ人体のメカニズムを説明し、必然的に導き出される効率的な対処法を示している。

最近トレッキングに出かけるようになった自分にとっては、高さ・暑さ・寒さがもたらすさまざまな危険を解説している本書は大変ためになった。

そしてそればかりではなく、読み物としても抜群におもしろい。人間がどのようなドラマとともに困難を克服してきたのかは本当にワクワクする。

さらに6章以降では、熱水の中や極寒の地で生きている信じられない生命たち(このあたりは新しい知見はなかった)についても触れられており、知らない人にとっては大変興味をそそる内容になっている。

俺は図書館で借りたんだけど、読み終わると同時にネットで注文した。オススメ。

ところで、つい先日の北ア遭難事故では、回収された遺体がTシャツや夏用のレインスーツ姿だったということで装備不足が指摘されていた。ところが続報では、ライトダウンやツェルトも用意した60L程度のザックを用意していたとのことで、準備に抜かりはなかったようだ。

キリマンジャロやアルプス登頂者もいるヴェテランがなぜ、という疑問の回答は低体温症。本書によると中度の低体温症(中枢温度が35℃を下回る)では、体が激しく震え、歩くのもやっとになる。言語は不明瞭に、思考は緩慢に、そして合理的な判断ができなくなる。雪の中で寝たいと思ったり、ザックが重すぎるから捨てようとしたり、寒さを感じないので服を脱ぎ始めることさえあるらしい。

先の事故でもおそらく天候の急変により、みるみる気温が下がり、様子を見ている間に低体温症に陥り、適切な対応が取れなかったのではなかろうか。

登山の先輩に対して失礼を承知で書くが、これは他山の石とするに格好の材料。

「ウェアの着脱は面倒臭がるべからず」

人間はどこまで耐えられるのか

  • 著者/訳者:フランセス アッシュクロフト
  • 出版社:河出書房新社( 2002-05 )
  • 単行本:372 ページ
  • ISBN-10 : 4309251609
  • ISBN-13 : 9784309251608
  • 定価:¥ 2,310

2012-05-15のニュース

2012-05-14のニュース

『名探偵を起こさないで』井上ほのか(講談社)再読了

登山のお供に持って行く本を本棚で物色。とある事情でミステリが読みたかったんだけど、目についたのは本書とチャンドラーの『高い窓』。どちらにしようかと思ったが、往復で確実に読み切れるこちらを選択。

おそらく10年ぶりぐらいで読んだが、女性ティーンズ向け文庫で曲がりなりにも本格してるのには感心するし、嬉しい。アイディアの巧拙というより、ごまかそうとしていない姿勢にすごく好感が持てる。

機会があれば他のシリーズも読み返したい。

名探偵を起こさないで (講談社X文庫―ティーンズハート)

  • 著者/訳者:井上 ほのか
  • 出版社:講談社( 1989-04 )
  • 文庫:261 ページ
  • ISBN-10 : 4061902776
  • ISBN-13 : 9784061902770
  • 定価:¥ 428

トレッキング(横川中堂)

冬の間、近場の勝手知ったる山を行ったり来たりしていたが、5月に入ったので、そろそろ新しい場所にも足を伸ばしてみることにした。

今日目指したのは比叡山系の水井山・横高山。JR湖西線堅田駅で下車し、上仰木方面へと歩く。のどかな田園風景を見ながら小径を進んでいると、道はいつしか舗装路へと変わった。……と、後ろから来た自動車が目の前で停まり、

「ここ歩けへんよ!」

どうも奥比叡ドライブウェイに入ってしまった模様。停まったのはドライブウェイ管理の方の車。このまま歩くのはマズいとのことで、近くの登山道分岐まで送っていただく。

あれよあれよという間に車は進み、元三大師道の前で降ろしていただく。

予定が大幅に変わったのでどうしようかと思ったが、とりあえず登る。

比叡山ドライブウェイからの景色

途中比叡山ドライブウェイの展望台を通り、横川に到着。なんとなく気も削がれたのでそのまま西教寺方面へ下山。水井山・横高山へは後日改めて。

本日の歩行距離:9.502km(10.547km-1.045km(車移動))

P.S.新緑が鮮やかなのはいいが、虫やらヘビやらも見かける。苦手なだけに、そういう意味では嫌な季節になってきた(笑)。

PC『魔法使いの夜』コンプリート

とにかくハイクウォリティの一言。グラフィックもサウンドも非常に力が入っており、趣味の域を越えた趣味の作品だと強く感じた。このような作品が出せるってのはすごく幸せなことなんだろうなあ。

ストーリィについては、すべてのTYPE-MOON作品のアーキタイプということで、衒学の香りを醸し出しつつもシンプルな構成。前半の遊園地あたりまではあまりおもしろみを感じなかったが、以降、次第に盛り上がった。

ひとつ引っかかったのは、主人公草十郎の設定。最後に生い立ちが明かされ、ベオとの戦いで示した強さのわけが回収されたけど、いかにも弱かった気がする。そういったことを匂わせる記述はあったが、もっと伏線を張ってもらったほうが納得できたように思う。

……いや、それでもただの人間が神話クラスの生物に一撃を与えるってのに納得するのは厳しいかな。まあでもそれを言い出すと青子にせよ有珠のプロイにせよ、ストーリィの都合での強さのインフレ/デフレが激しすぎるか。

あとはシステム。選択肢なしのヴィジュアルノヴェルだったけど、草十郎が久遠寺邸に住むことができたのは、あらゆる選択肢を間違えなかった奇跡の結果なわけだから、正解か即バッドエンド行きかの選択肢を用意するような形でもよかったのでは。綱渡りで常に正解されてどうもご都合主義的に感じてしまったから。

いくつか注文をつけたけど、大変質の高い作品であることは間違いない。ストーリィに感動させられるようなものではないけれど、やる価値はあるし、自分も時間をおいて再プレイしたい。

さらに、売り上げ次第かもしれないが、続編も構想されているようだ。期待したい。

魔法使いの夜 初回版 (Amazon.co.jpオリジナル特典ポストカード付)

  • 発売日:2012-04-12
  • カテゴリ:DVD-ROM
  • 定価:¥ 8,400

『織田信奈の野望 3~6』春日みかげ(ソフトバンククリエイティブ)読了

3巻から始まった金ヶ崎の戦いの緊迫感はなかなかのものだった(まあどんな信長関連創作においても盛り上がるところだから、これでダメならアカンという話もある)。相変わらず「戦場においての人死に」に向きあおうとしない態度には腹が立つが。

また、本作の鍵となるのではないかと考えていた史実とのズレも、どうしたいのか、どうさせたいのかよく判らない。とにもかくにもポイントは本能寺なのでどう収斂(そして拡散?)させるのかは見もの。

最後に本願寺が本猫寺となっていることに違和感。浄土真宗への配慮? 個人的には萎えた。

織田信奈の野望 3 (GA文庫)

  • 著者/訳者:春日 みかげ
  • 出版社:ソフトバンククリエイティブ( 2010-05-15 )
  • 文庫:312 ページ
  • ISBN-10 : 4797358750
  • ISBN-13 : 9784797358759
  • 定価:¥ 641


織田信奈の野望 4 (GA文庫)

  • 著者/訳者:春日 みかげ
  • 出版社:ソフトバンククリエイティブ( 2010-09-15 )
  • 文庫:320 ページ
  • ISBN-10 : 4797361239
  • ISBN-13 : 9784797361230
  • 定価:¥ 651


織田信奈の野望 5 (GA文庫)

  • 著者/訳者:春日 みかげ
  • 出版社:ソフトバンククリエイティブ( 2011-02-15 )
  • 文庫:376 ページ
  • ISBN-10 : 4797362227
  • ISBN-13 : 9784797362220
  • 定価:¥ 672


織田信奈の野望 6 (GA文庫)

  • 著者/訳者:春日 みかげ
  • 出版社:ソフトバンククリエイティブ( 2011-06-16 )
  • 文庫:304 ページ
  • ISBN-10 : 4797364424
  • ISBN-13 : 9784797364422
  • 定価:¥ 641